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〈2不登校②〉 学校の中に〝安心して行ける〟場所を

聖教新聞2024年8月5日付


 いわゆる学校の教室〟らしくはない。ソファがあって、カフェのカウンターのようなスペースがあって、装飾もほどこされていて──神奈川・相模原市内の中学校に設置された「校内フリースクール」と呼ばれる場所である。

 放課後のその教室に、総括教諭を務める澤田佳代子さん(白ゆり長)が案内してくれた。「不登校の子どもたちがホッとして元気になれる。そんな雰囲気を大事にしています」

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 主に利用するのは「大人数の教室に居づらい」等と感じる生徒たちだという。場所は、正門とは別の校門から入ってすぐの校舎1階にあり、気軽に出入りできる。常時、来室しているのは10人前後。みずから登校日や登校時間を決め、教科ごとに学習支援を受けながら、自分のペースで学んでいくスタイルだ。

 校内フリースクールの目標は「学級への復帰」以上に、「人とつながれる場をつくること」にある。「生徒」「教職員」「保護者」との間に豊かな関係性をどう築くか。澤田さんは祈りを込めて職務に当たる。

 生徒に対して心がけているのは、「ありがとう」をたくさん伝えること。そして、当たり前を当たり前にしないことだ。今日もここに来てくれて「ありがとう」。一緒に勉強してくれて「ありがとう」─入室したての頃はずっと顔を伏せていた生徒も、次第に目を合わせてくれるようになる。

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 不登校の生徒やその保護者との関わりに悩む先生たちへの、支援と励ましも欠かせない。「関わり続けることは、種をまいた大地に水を与え続けることと同じ。いつか必ず芽が出ます」「先生の一言で、生徒や保護者の気持ちがパッと前向きに変わる瞬間があります。だから、心を込めて言葉をかけ続けましょう」。家庭訪問を共にすることもある。その道中でも感謝の言葉を忘れない。

 また、校内フリースクールの生徒たちの挑戦をまとめた通信を毎月発行し、全教職員に共有している。不登校への理解を深め、授業の工夫も学べる内容だ。教職員のよい変化〟を、生徒たちは鋭敏に感じ取る。

 保護者とは、懇談や電話を通して、不安な思いにじっくり耳を傾ける営みが不可欠だ。その上で時には、子どもの未来のために言うべきことも言う。愛情の深さと真剣さから発する一言だからこそ、心に共感の橋がかかるのだろう。

 校内フリースクールが発足して4年。多くの生徒が巣立っていった。卒業式の式典には出られない子のため、校内フリースクールの教室に紅白幕を張って迎え、校長先生から卒業証書を手渡したこともある。「よく頑張ったね」─生徒も保護者も教職員も、笑顔に涙をにじませた。

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 種が芽吹くタイミングは人それぞれ。中学在学中に学級復帰ができた子もいれば、高校で実を結ぶ子もいる。

 生徒会委員となって活躍し、高校紹介のパンフレットに掲載された子。無遅刻無欠席で「オール5」の成績を収めた子。澤田さんがふと利用したガソリンスタンドが卒業生のアルバイト先で、「先生!」と大きな声で呼ばれて懐かしい再会を果たした子もいる。中学時代はものかげに隠れていたような生徒だ。驚いた。なんだかとてもうれしかった。

 母校に帰ってきた卒業生が、口々に言う言葉がある。「先生、あの時はありがとう。学校の中に行ける場所〟があって、よかったよ」

 澤田さんの胸に温かいものが込み上げる。あなたがあの場所に来てくれたから、私たちも成長できた。先生のほうこそ、ありがとうだよ─。

 この子たちが地域や社会でも〝よきつながり〟に恵まれていくことを、願わずにはいられない。