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〈1不登校①〉「分かってもらえる」 それだけで力が出る 子も親も教育者も

聖教新聞2024年7月24日付

 教員の苦悩

 

 小・中学校の不登校者数が過去最多に──文部科学省が昨秋発表した調査を、阿部麻美さん(福島旭日県少女部長兼白ゆり長)は、実感をもって受け止めた。

 0歳から18歳の子どもとその保護者を対象とした心理ケアに当たるNPO法人に所属しつつ、スクールカウンセラーとして、福島・相馬市内の小・中学校に勤務する。相談内容で最も多いのが、「不登校」だという。

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 もともと、いわき市内の病院で臨床心理士を務めていたが、「東日本大震災で被災した故郷の力になりたい」と、2年前に相馬へ。学校に足を運ぶようになり、驚いたことがある。「先生たちはこんなに忙しいのか」

 話には聞いていたものの、想像以上だった。ぼうだいな事務作業などに追われ、夜遅くまで職員室の明かりが消えることはない。児童・生徒の不登校が増える中、教員の方々の苦悩が伝わってくる。「本当はもっと、子どもたち一人一人と向き合いたいのに……」

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 阿部さんは痛感した。子どもを支える側の大人に、安心感や心の余裕、エネルギーが生まれない限り、子どもたちが安心して過ごせる家庭・教育環境もつくれない。

 では自分に何ができるか。それは「話を聞く」。カウンセラーとして具体的な助言をする割合は、全体の仕事の1割にも満たない。残りの9割以上は話に耳を傾けること。子どもも親も教育者も、「気持ちを分かってもらえた」という実感が、何よりの力になるからだ。

 子どもの場合は言葉のやり取りだけでなく、一緒に遊んだり絵を描いたりする中で、その声や表情、作品の中からメッセージ〟をみ取るケースもある。どんなことに悩み苦しんでいるのか、持てる限りの〝想像力〟を働かせるのである。

 保護者の場合は、不登校への不安やあせりをそのまま受け止める。どんな感情も否定はしない。

 一つだけ、「それは違います」と返すことがあるとすれば、保護者が「不登校は恥ずかしいこと」ととらえているケースだ。

 不登校は誰にでも起こりうる。ある意味、真面目な子ほど不登校になる場合も少なくない。また、不登校の経験を通して親子の絆が強まったり、人の痛みが分かるようになったりして、より豊かな生き方ができるようにもなる。そうした視点を分かち合い、保護者に安心感が生まれると、子どもへの言葉がけにも良い変化が生まれる。すると、子どもも次第に元気を取り戻していくのである。

 教職員との間においては、ケアに関する研修会やケース会議に加え、日常のおしゃべりも大切な時間になる。仕事の苦労や本音を共有し、ねぎらい、たたえ合う。さいなようで、こうしたひとときからも、子どもと笑顔で向き合うエネルギーは充電できるのだ。

 阿部さん自身、こうした関わりを続けられるのは「話を聞いて共感してくれる創価家族がいるから」。担当している地域の少年少女部員たちからも、どれほど元気をもらっているか分からない。

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 思えば東日本大震災の津波で自宅が全壊し、同級生など親しい人を失った悲しみから立ち上がれた理由も、池田先生の励ましと同志のつながりがあったからだ。共に歩んでくれる人がいる限り、苦労は強さに、悲しみは優しさに変えていける。どんな困難も〝意味あるもの〟にしていける──その確信が今、目の前の一人にどうしたいと思う自分を支えている。

 

 「支える人」を「支えていく」

 

 不登校の要因は人それぞれ。明確な理由が存在するケースもあれば、周囲からすると〝なぜ?〟〝どうして?〟と思われる場合も少なくない。

 中高一貫の中等教育学校・教員、やなぎもと満春さん(神奈川・相模原総県男子部長)もそんなケースに直面したことがある。男子生徒の和也さん(仮名)はクラスのムードメーカーで、勉強にも一生懸命。だがある日突然、学校に来なくなった。調べた限り、友人とのトラブルは確認されない。保護者も理由が分からず、まどっている。

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 柳本さんは祈りを重ねて心に決めた。「彼の気持ちを理解しなければ」

 保護者の了解を得て、家庭訪問に向かった。しかし和也さんは足元を見つめて黙ったまま。それでも何度も足を運び、保護者の話に耳を傾けた。続けることで、はぐくまれる信頼関係もある。

 一方で、「居心地の良いクラスづくり」にも努めた。不登校の生徒に、ただ復学を求めてはいけない。誰もが心から「行きたい」と思えるクラスを、皆でつくることが重要だ。和也さんと仲の良い数人の生徒たちが協力してくれた。係決めや合唱祭の準備に当たっても「和也なら何の係を選ぶかな」「合唱パートはどれが合ってるかな?」と思いを巡らせ、全員で一緒に考えた。和也さんがいつ戻って来ても、安心して学びを再開できるように─。

 少しずつ、柳本さんの訪問に和也さんが応じるようになった。学校に行けない理由を無理にではなく、今の気持ち〟を話してもらえるよう心をくだいた。しばらくすると近くの公園を共に散歩したり、趣味の話をしたりできるようになった。

 彼が、学校に行けない理由を語ってくれた。何事にも頑張り続けてきた結果、ある日突然、心の糸が切れてしまったらしい。行けない日が続くほど、行きづらくなってしまったという。柳本さんは、話してくれたことに感謝しつつ、笑顔で伝えた。「大丈夫。みんな、変わらずに待ってるよ」

 不登校になってから1年弱─震える足で学校の正門に立った彼を笑顔で迎えてくれたのは、クラスメートたちだった。「待ってたよ!」

 和也さんは、登校を再開。文化祭の劇の舞台にも立った。彼の両親は、わが子が堂々と演技をろうする姿に涙した。

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 取材の折、柳本さんが話したことがある。「学校のクラスづくりと学会の活動って、通じる部分があると思うんです」

 学校も学会も、人間として学び励まし合い、成長できる場所だ。頑張れる人もいれば、時にどうしても頑張れない人もいる。その上で、どんな人でも「自分はここにいていいんだ」という安心感を得られる〝居場所〟にしていかなければならない。誰かがしばらく休むことがあっても、その人を信じて待ち、戻って来た時には両手を広げて皆で迎える──そんな温かな世界をつくるには、学校では教員の、学会においてはリーダーの、汗と労苦が欠かせない。

 柳本さんは言う。「教員の立場だと、支えてくれる管理職や同僚、理解を示して応援してくださる地域の方々や保護者の存在が力になります。学会男子部のリーダーの立場であれば、苦楽を共にする仲間、どんな時も励まし続けてくれる壮年・女性部の方々が、どれほどありがたいか」

 子どもを「支える人」を「支えていく」。そのつながりをいくにも広げた先に、「子どもの幸福」第一の社会も築かれるに違いない。

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